ある大学の大学院生向け「経営・マーケティング特殊講義」のコマを頂いている。90分を2コマだけなのだが、今年は『コロナ禍後の 流通構造の変革と日本の流通業の動向』がテーマである。もう、何年も出講させて頂いているのだが流通小売業に馴染みのない受講者に小売業の話をするには、どうしても「業種」「業態」「フォーマット」から始めなければならない。日本小売業の近代化の流れを外すわけにはいかないからだ。
▼近代化の流れで言うと、日本の小売業は、個人の生業店と百貨店が主体の時代があった。生業店の品揃えは「業種」であり、同業種間の品揃えの差は大きく違うことはなかった。品揃えに差がなく、対面での販売が主体であれば、真面目に商訓を守り、接客に励んだ店が繁盛したのだ。この商訓とは「お客様第一主義」であり、「真心」での対応であった。個人商店の家族経営で、組織的な人材育成の発想もなかったから、教育は「精神論」と「接客技術」を中心とし、多くは苦労話と教訓だった。
▼その後、革命的な変化が起きたのは、「チェーン理論」の出現による。小売業ではなく流通業を、単独店ではなく複数店舗を、中小規模から大規模企業に成長させるという、これまでになかった概念の提示であった。要点は、商業の工業化、そして責任分担を明確化する組織論にあった。大手小売業に入社したとき、店舗に店長職はなかった。存在したのは「ストア・マネジャー」職で、後から考えると担当店舗の「売上責任」を課さないという組織発想だったと気がつく。決められた事項実現のためにマネジメントするのがストアマネジャーの職務であった。
▼この「チェーン理論」を極限まで推進すると、無人化・無店舗化に向かうことになるはずだ。アマゾンが出現して成長を続けると、ウォルマートが「店舗ピックアップ」や「ネット販売」を実行するなどの対応策を採っている。「流通革命」を推進しての理想像がこれなのかと思う。ダークストアに代表されるように店舗は「倉庫化」してしまうのかと思うと情けない。ただ、「チェーン理論」の推進と言いながら、多くの企業は、理論に反して「ストア・マネジャー」に「売上責任」を課してきた。売上責任を果たすためには、部下を用いなければならない。「店舗」が存在すれば、「組織」も「人材育成」も必要になる。ここでは、「マニュアルの忠実な励行」よりも「技術」が重要になるはずだ。
日本の小売業は、チェーン化の過程でインダストリアリズムやエンジニアリングを学んで来た。しかし、それだけでは実利は出にくかった。結果、「販促」に傾斜せざるを得なかったのが、これまでの動きだと言っても過言ではないだろう。コロナ禍後の今、小売業が本質的に持っていた「商売」を取り戻さねばならないはずだ。この事が「個店経営」の推進と言える。
DXの時代であっても、店舗で重要なのは、「デジタル化」ではなく「アナログ感覚」を磨きあげることとは言い過ぎだろうか。
(2022・09・29)