古い話になるが、1929年米国で大恐慌が起きた。その翌年マイケル・カレンは、ニューヨークの郊外ロング・アイランドで、「キング・カレン」という店を開店し大成功した。その成功の要因は「安売り」にあった。ただ、それまでの「安売り」とまったく異なった方法によるものだった。単なる不況時の安売りではなく、後世になり学者が言う「業種」から「業態」への転換による成功でもなかった。(株)島田研究室の島田陽介氏のセミナーでの話である。
▼マイケル・カレンのやったことの本質は何か。当時の商業は「業種」に分かれていた。それら「業種」の品揃えの中から、不況時においても、多くの家庭がどうしても買わなくては困るものは何と何かと、足し算してリストアップしたのである。
不況時には、人は本当に必要なものしか買わない、いや買えない。マイケル・カレンは、店の立場、あるいは当時の商業の「常識」を超えて、いま本当に困っている人々の立場に立って、何から扱ったらいいか考えたのである。何に困っているかを考えたのだ。これが後に「業態」と呼ばれる「生活必需品」の品揃えであったのだ。
▼次ぎに彼が考えたのは、「出来るだけ安く」手に入れること、それが必須条件であるということだった。それには薄利で売ることしかない。だが薄利では、店は成り立たない。そこで元に戻って、では「みんなが本当に欲しいもの」すなわち、みんなが買いに来るものは何か、と考えた。それを揃えて、安く売れば、薄利でも多売が成立する。お客さまは欲しいものを買うことが出来、カレンはそれによってビジネスを成立させることが出来る。こうして始まったのが「キング・カレン」だった。当時まだ「セルフサービス」は発明されていない。
▼「では今われわれは、どう考えるべきか」カレンの目前にあったのは「業種」であり、単独店だった。われわれの目前にあるのは「業態」であり、チェーン店である。しかし、この「業態」は、カレンが見た時の「業種」のように、他社がやるから・自社もやる、これまでやってきたから・これからもやるの形で続けているのではないかと危惧する。チェーンストア理論は、商業の工業化であった。工業化の理想は、無駄をそぎ落とし、最終的には無人化推進することにある。米国でAmazonとWalmartの戦いをみればよく分かる。
しかし、「お客さま」がスーパーマーケットに望むのは、決して便利さだけではなく、選ぶ楽しさやこだわりの商品選びをする喜びなど、「店舗での買物」を楽しむことにもあるはずだ。それを気づかせることはわれわれSMの任務で、日々の売場づくりによって築かなくてはならない。「自分のお店」のあり方を考える。そして、そのお店での買物が不都合でないかを、本当の意味での「お客さま」の目で見直し、商品の1つ1つについて、真にお客さまが求めているものは何か、「足し算」して見直してみる必要があるかも知れない。1930年にマイケル・カレンが努力を重ねたように、われわれも新しい売場をつくり、提案したいものだ。