コロナ禍を経て全体が日常を取り戻しつつあるなか、小売業はインフレという新たな課題に直面した。それも、消費者の意識変化も踏まえたサステナビリティに配慮した企業活動、DXを通じた効率化や買物体験の向上など取り組むべき要素は格段に増えているなかでだ。世界的にも、アジア市場ではDXや新たな購買チャネルの進化といった動きを見せているし、価値観の多様化の面で日本と似ている欧州市場動向など改めて注目が集まっている。
▼特に欧州小売市場は、積極的なサステナビリティへの取り組みや緻密なPB商品の開発など、米国小売とは異なる特徴を有する企業が多く魅力的でもある。ただ、消費スタイルや食品・環境に関する規制が大きく異なるなか、具体的に何を取り入れるかを考慮する必要もありそうだ。これまでの日本の小売業の学びは、多くが真似ることが中心であったが、これからは革新のためのヒントを把握するためのものにしたい。
▼欧州小売市場の特徴は、消費者の所得やライフスタイルに対応した結果としての業態の多様性にある。伝統的に社会的身分や所得の格差が大きかったので、各社・各ブランドがターゲットとする消費者層ごとに細かく業態が分化している。英国での例をみるとWaitroseやWhole Foods Marketは富裕層、Sainsbury’sは中流層、Tescoは主に低所得層が多く住まうエリアで店舗展開をしており、すみ分けが明確になっている。
▼これまで、日本では消費者の横並び意識が強く、小売業は特定の消費者にターゲットを絞る必要がなかった。しかし近年は所得格差の拡大、その上に買物の選択基準として何を重視するかという消費者の消費に対する価値観も大きく多様化している。これまで以上に「消費者セグメント」を意識する必要がある。日本小売業の新しいフォーマット開発やディスカウンター創造、PB商品の複線化の動きは対応の結果だろう。欧州小売が先行して展開する業態の多様性は、非常に参考になりそうだ。
2023/11/28