小売業における新年の課題は、23年を振り返って見ると、続いてきたデフレ下の戦略からの転換になりそうだ。そのひとつが給与を含めた「ヒト」への投資になる。昨年は大企業を中心に30年ぶりとなる高水準のベースアップが実施された。今年も商品値上げが緩やかに続く見通しもあり、政府も労組も物価上昇率以上の賃上げを求めている。新規採用と社員の定着面で人件費アップは不可避になろう。この「ヒト」への投資余力が、企業間格差の拡大に直結する可能性が高い。
▼上場企業を中心とする食品スーパー(SM)の業績は好調だ。要因は値上げによる単価アップで、1品単価が買上点数や客数の落ち込みをカバーしている。利益面では前年から電気代の高騰が続いているものの、販管費の上昇分をトップラインの伸びが吸収できたことが大きい。 ただ、足元では人手不足感が一段と強まっている。新店スタッフが確保できないまま、やむなく他店の応援で穴埋めしての開業事例をたくさん聞くようになった。
▼SM各社は賃上げとセットで従業員の生産性改善や働きやすい環境整備を進めることで、定着率の向上を図っている。年末の業界マスコミとの懇談会の席で、ヤオコーは、24年に持ち越した課題の一番に省人化を挙げていた。AI発注や可動式棚などハード面への投資は進んでいるが「省人化が追いついていない」という。一部店舗でフルセルフレジに切り替えるなどして店舗オペレーションの見直しを進める方針を語っていた。
▼根本的な問題が解決せずに場当たり的との批判が多かった「年収の壁・支援強化パッケージ」(厚生労働省)の活用も進みそうだ。ライフコーポレーションは、「労働時間延長メニュー」を活用し、勤務時間の延長と社会保険加入をしてもらい、1人あたり最大50万円の助成金を還元していくとしている。また、人材採用と定着のために、これまで禁止していた勤務中の身だしなみ規定を大幅に緩和する企業など、さまざまな施策が試されている。
2024/01/05