ドイツでは今年初め全国の農民約3万人が約1万台のトラクターで幹線道路や高速道路を封鎖するという大規模な抗議行動をおこなった。農家向け補助金の削減に対しての反発だったが、背景には「脱炭素」政策のターゲットとして農業を悪者扱いする政府への怒りがあった。政府の譲歩案も抗議行動を止めることはできなかった。農民の大規模なトラクターデモはドイツだけではなくオランダやフランス、ポーランドなどEU各国で起きている。
▼農民の怒りの根は、ヨーロッパ全土に広がるEUの「グリーン・ディール」政策にもとづく農業破壊の強行に向けられているとある。EUは19年に「温室効果ガスの削減」と「経済成長」を、新たな成長戦略に据えたのだが、この政策によって「成長」したのは一部の再エネ関連産業のみという現実が赤裸々になっている。他方で中小規模の農業をはじめ広範な国内産業が犠牲になっており反発は国民的な規模に広がっている。
▼国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、世界における温室効果ガスの内訳は、76%がCO2、次に多いのがメタンで16%、亜酸化窒素6.2%、フロン類が2%と続く。ドイツでは、温室効果ガスのうち、おもに酪農・畜産業に由来するメタンや亜酸化窒素などの比率が20%と高い。日本の場合は食生活の違いもあり、メタンなどは微々たるものだ。圧倒的なのはCO2で9割以上を占めている。
▼EUは、すべての産業活動に対して、温室効果ガスを出すか出さないかで「善」か「悪」かにわけ、それを加盟国にも押しつけているのだ。「環境再生型農業」と称して30年までに欧州の農地の4分の1をオーガニックに転換するとの目標を掲げている。酪農や畜産、伝統的な農業をやり玉にあげる動きは、中小規模の農家を追い詰め廃業に至るケースが増えている。中小規模の農家が手放した農地を大規模農家が買いとっており、農業の寡占化が進んでいるらしい。農業危機を訴え、国旗を揚げて抗議集会を開く農民たちの気持ちが伝わってくる。
我々も農業の問題を身近な事として真剣に考えたいものだ。
2024/04/11