米国でも鶏肉消費が増えている。長引くインフレのもと、牛肉などに比べ安価なことが消費者を引きつけている。特に鶏肉需要の伸びを支えるのは、他の食肉と比べた値ごろ感になる。価格は、牛肉の約3分の1、豚肉の約2分の1になる。結果、米国の消費者は牛肉、豚肉の2倍近い鶏肉を食べるという予測がある程だ。完全に国民食は「ビーフよりチキン」の様相のようだ。米マクドナルド社も、フライドチキンを使ったサンドイッチ「マッククリスピー」の販売が伸びていると発表している。
▼気候変動は世界を脅かしているが、気候変動の対策面でも不利な面もある。牛や羊などの反すう哺乳類は発酵によって食物を消化し、メタンガスを排出する。これが問題というのだ。食料と農業は人類が排出する温暖化ガスの約30%を占め、畜産部門だけでその半分近くを占めている。これは牛肉というよりも温暖化防止の観点からは、肉の過剰摂取は控えるべきということになる。ただ、動物由来の食品には、植物由来の食品にはない栄養があるはずだ。
▼健康維持に不可欠な微量栄養素は、他の食品ではなかなか見つけることができない。世界では22年時点で7億3500万人が栄養不足という。しかも、その半数がアジア太平洋地域にいる。多くの人が栄養失調に苦しむ同地域では、食肉をなくすことはできない。人工肉などの代替肉を求める動きもあるが、栄養の質が不十分であり、代替にはならないと思える。従来の食肉生産をより持続可能なものにすることが、どうしても必要になって来る。
▼味の素が、世界で畜産由来の温暖化ガスの削減を支援するとの報道があった。独自開発した栄養剤を飼料に混ぜて牛に与え、排せつ物の余剰物質を減らしたり、肥育期間を短くしたりすることによって、排出量を1割程度減らすというのだ。デンソーも、微細な藻類を活用し牛の飼料としての実用化を目指している。伊藤ハム米久ホールディングスも、生産や輸送時に排出する温暖化ガスが実質ゼロの牛肉を小売店向けに販売すると発表している。幾つもの期待できるテクノロジーだが、生産コストが上がり、価格がさらに高騰する懸念もありそうだ。
2024/05/15