農業の競争力を高める努力を怠ってきた結果・・・

何日か前の日経新聞に「農林中央金庫は2024年度中に、保有する米国債や欧州国債を10兆円以上売却する。(略)2025年3月期の最終赤字額は1兆5000億円規模に拡大するとみられる」とあった。農林中央金庫は、農業協同組合、漁業協同組合、森林組合その他の農林水産業者の協同組織の金融の円滑化を目的として、貯金の受け入れ、資金の移動や貸付、手形取引、有価証券運用などを行っており、農林中央金庫法を根拠法とする民間金融機関だ。

▼1990年代後半からの貸出利率の下落により、潤沢な資金を背景にヘッジファンドとしての転換を遂げた。米国大学のMBA取得者約300人を抱える有価証券投資部門を持ち、MBA留学比率は日系企業においてもトップクラス。ロンドン、ニューヨーク、シンガポールを拠点に海外積極投資を展開している。銀行免許を持つ金融機関でありながら農林水産省の所管。JAバンクから上がってくる約80兆円の貯金を、県信連を通して運用している。

▼何兆円もの資金運用が使命なので、避けられない事態もあるのだろう。過去にも、農林中金を中心とする「JAバンク」は、住宅金融専門会社(住専)問題が起きたときになるが、有価証券での運用難にあえぐ農林系金融機関から大量に流れ込んだ資金を、住専は、これを元手に不動産融資を野放図に拡大した結果、不良債権処理に公的資金を注入する事態になっている。住専7社への融資額は5兆円を超えていたので、厳しい批判にさらされた。

▼リーマン・ショック時にもサブプライムローンで1000億円規模の損失を被り、保有する証券化商品や株式の減損処理を実施している。今回は、日銀によるマイナス金利政策の導入で国内での運用が厳しくなってからJAに対する奨励金の削減を進めてきた。ただ、求められる利回りは日本国債などの利回りを上回っている。安定的に還元するために信用リスクの少ない外国債券に傾斜したが、これが金利上昇局面で裏目に出た。

農林中金にしわ寄せがくるのは日本の農業が衰退してきたためだ。産業としての農業の競争力を高める努力を怠ってきた結果とも思える。

2024/06/22