『砂の文明・石の文明・泥の文明』・・・

米国の小売業視察などの研修に参加する時に、必ず目を通す書籍がある。松本 健一著『砂の文明・石の文明・泥の文明』PHP新書272だ。03年10月の出版になる書籍なので、20年も前のものだが、民族と風土に関する理解を深めるのに分かり易く記述している。松本氏は、日本の評論家、思想家、作家、歴史家、思想史家で麗澤大学経済学部教授。民主党時代の内閣官房参与(東アジア外交問題担当)を歴任している。

▼著者は、熊谷高校で小生の2年先輩であり、東京大学経済学部卒業、評論・評伝・小説など多方面で活躍をした。著作は多数あるが、評伝『若き北一輝』で注目される。この『砂の文明・石の文明・泥の文明』では、民族と風土のあり様を3つのカテゴリーに分類して考察を展開している。「砂の文明」としてのイスラム、「石の文明」としての欧米、「泥の文明」としてのアジア。そしてその本質を「ネットワークする力」、「外に進出する力」、「内に蓄積する力」であるとしている。

▼ヨーロッパは、石の文化である。その自然は多く牧場につくられているから、一見緑が多く豊かそうだが、表土が極めて少なく、牧草ぐらいの根が浅いものしか育たないのだ。そこで可能なる産業は牧畜になる。生活や産業を少しでもその水準を上げていくためには、土地の規模を拡大しなければならない。牧場を広げていくとフロンティアの精神が顕著になる。ニューフロンティアを求めて米国に渡り、アフリカに、そしてアジアに進出して来た。ヨーロッパ近代文明の本質は「外に進出する力」になる。ビジネスにおいても同様だ。

▼日本を始めアジア各国は、泥の文明である。これは泥土が多くの声明を生むという事実の上に成り立っている。農作に関しても、豊饒な泥土に工夫をして対応していくことで前年を上回る収穫が可能になり、生活の程度を高めることが出来る。外に進出する必要がなく、内に蓄積する力を信じて、品質管理と品種改良の技術革新を重ねていたのだ。このように日米では根源的な文明が異なることを認識して、米国小売業から何を学ぶべきかを考えてみたい。

2024/07/16