コメ不足に乗じてか、食糧安保のためにコメの輸出を真剣に考えるべきとの論がよく出る。テレビ番組のコメンテーターも「平時は輸出して儲け、非常時には輸出を禁止し、その分を国内へ供給する」との発言をする事も多い。40年ほど前から「攻めの農政」として喧伝して来た政策だが、昨年の輸出実績をみてもたいした量でない。37,186トン(前年比29%増)と未だ少ないのだ。国内消費予測が682万トンなので僅か2日分でしかない。
▼日本のコメの価格は少し高いが美味しいと言う。確かに世界中で一番旨いコメだと思う。ただ、人々の味覚は、それぞれの人が生まれ育った国の風土によって違っている。旅行者とは別に世界の人たちは、どんな味覚を持っていて、どんなコメを食べているのか。東アジアの穀物であるコメは、大部分が東アジアで生産され、東アジアで消費されている。インディカ種が約85%でジャポニカ種が約10%の生産量という。
▼このふたつは食味がまったく違う。インディカ種は粘り気がなく、パサパサしている。そして強い香りがする。ジャポニカ種は、それと反対である。どちらが旨いかを議論するのは無意味だ。日本人はジャポニカ種が旨いと思い、ジャポニカ種を作り食べており、日本以外の人たちはインディカ種が旨いと思い、インディカ種を作り食べているのだ。30年前に起きた平成のコメ騒動の時に、政府が緊急に輸入したコメは、味覚に合わず不評であったのだ。
▼コメの国際価格は、精米1トン522ドル(24年11月1日現在の価格)である。玄米60Kg当たりに換算すると5220円(1ドル150円・精米歩留まり0.9)になる。日本の価格は、9月速報値だが玄米60Kgあたり22,700円である。これに海上運賃と保険料が加算されて輸出価格になるが、これらを無視しても国際価格の4倍以上になる。世界のコメ市場で、日本のコメは少し高めだが旨いの認識は違っており、輸出は難しいと思える。
2024/11/20