上手な接客につい衝動買いしてしまった・・・

衝動買いした熊谷守一『夜の月』(シルクスクリーン)

私事になり恐縮だがお許しを頂きたい。7年前になるが、「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」展をこの時期12月に東京国立近代美術館に足を運んだ。熊谷守一は、80歳を過ぎてから広く世間に知られるようになった遅咲きの画家で、1880年に岐阜県で生まれ、1977年に没するまで、97年の天寿をまっとうした。猫や花や虫など、身近な対象を明快な線と色で描いた作品は、多くの人が目にしたことがあるだろう。

▼1900年に東京美術学校に入学し、青木繁ら同級生とともに黒田清輝らの指導を受け、人体のデッサンや闇の中でのものの見え方などを探究した画家だ。自宅から外に出ない晩年の生活、長い髭をたくわえた独特の風貌から変人扱いをされることも多かったと推測できる。ただ、実際には多くのことを研究し、工夫し、作品をつくっていたのだろう。この展示会では、ストリー立てて流れを読み解くような工夫が感じられた。

▼列車に飛び込んで轢死した女性を描いた作品『轢死』や、闇の中でロウソクに照らされた自身を描いた『蝋燭(ローソク)』など、晩年の温かみのある作品からは想像できない写実性あふれる作品から始まり、4歳で亡くなった次男・陽の亡骸を描いた『陽の死んだ日』や、数多くの荒々しいタッチの風景画・裸婦像などに続き、そして、自宅の庭や植物を描いた作品が中心となり、もっとも一般的な「熊谷守一像」に近いであろう作品群が並んでいた。

▼ともすると熊谷の有名な作品には「ヘタウマ」なイメージがつきまとう。ただ、たとえば『猫(1965)』は、作品は小さく、シンプルで省略された筆で描かれ立体感もないが、背骨の構造やたるんだ肉体などが描かれているのだ。知れば知るほどに奥が深い画家であることを気づかせてくれる。なんで急にこんな内容になったかというと、丸広百貨店を視察しながら画廊で版画展が開催されていた。そこで彼の『夜の月』を衝動買いしてしまったからだ。ちょっと大きなムダ(?)使いをしてしまった。

2024/12/06