
松本 莞 著(みすず書房)
2月のコーネル大学RMPジャパンは、神戸にある流通科学大学のキャンパスをお借りしての開催であった。この流通科学大学は、ダイエー創始者である中内㓛氏により設立された大学であり、「生産から消費生活に至る」すべての過程を対象とし、それぞれの学部で特色を持たせた学科やコースで学べることを特徴としている。我が国の流通近代化の流れを体験してきた者には、キャンパス内の記念物に魅せられ、特別な思いが湧いてくる場所でもある。
▼ダイエーに無理やり関連つける必要もないが、中内㓛氏の懐刀としてダイエーを日本一の流通業に押し上げる原動力となったメンバーのひとりに大川 栄二氏がいる。三井物産出身で、開発本部長を経て副社長、マルエツ(旧サンコー)の代表取締役社長まで務めた人物だ。個人で、株などで増やした資産を使い、ピカソ、ルオーだけでなく国内の若い画家の作品も積極的に蒐集した。そして、故郷の桐生市に銀行の社員寮を改築し大川美術館を開館している。
▼個人的な話題で恐縮だが、楽しみは「絵を見ること」である。好きな画家に関する書籍『父、松本俊介』が、みすず書房から1月に刊行された。この本に没頭していたら、日経新聞『読書』欄で取り上げられていた。この松本俊介の油彩画18点、水彩素描50点を所蔵しているのが大川美術館で、大川氏が美術コレクションを始めるきっかけとなったのが松本竣介の作品だったという。親しい友人に案内され、初めて大川美術館を訪ねてからもう30年近く経つ。
▼松本竣介は、日本が戦争へ突き進み敗戦へ至る時代、詩情通う都市の情景や人物像を描いた画家で高い評価を受けている。この本の著者は、早世した画家の次男 松本 莞氏で、父が生前書いた文章やメモなどを数多く引用し、生涯を克明にたどっている。印象深いのは、戦中から戦後に至る激動の時代に、疎開先の親族へ書き送った手紙の文章だ。竣介が病没したとき8歳だった著者の身内からの証言は、作品の解説と別にとても貴重なものになりそうだ。
2025/02/24
折悪しく、大川美術館は館内改修工事中で25年4月25日(金)まで休館している。
