2025年、米国小売業界は未曽有の閉店ラッシュに直面している。調査会社コアサイト・リサーチによると、年内に約1万5,000店が閉鎖される見込みで、昨年の7,325店を倍増させる規模だ。すでに上半期だけで5,800店超が閉店し、開店数を大きく上回る。パンデミック期を超える勢いで進む閉鎖の波は、単なる不況ではなく「業界構造の地殻変動」を示している。
▼背景には、インフレと高金利によるコスト増、家賃や人件費の上昇、そして消費者行動の根本的変化がある。Z世代を中心に、低価格かつ配送の速いECアプリを利用する動きが加速し、実店舗の利便性が相対的に低下。オンラインで比較・購入する「即決型消費」が主流化する中、実店舗は「体験価値」や「ブランド接点」を提供しない限り、存在意義を失いつつある。さらに投資ファンドも不採算事業への出資を控え、再建より撤退を選ぶケースが増加。小売各社は“再生か完全撤退か”の二択を迫られている。
▼影響は“食”にも及ぶ。米最大手クローガーは2025年以降に60店舗を閉鎖する計画を発表し、すでに約18店を閉鎖済み。一方で30店舗の新規出店も進めており、「閉鎖=縮小」ではなく、成長拠点への再配置という再編戦略を示している。高コスト構造の是正と、デジタル注文・宅配対応店舗への転換が鍵となる。ウォルグリーンやCVSなどのドラッグストアも重複立地を整理し、ライトエイドは再破産に追い込まれた。ディスカウント業態では中堅チェーンの撤退が相次ぎ、市場淘汰が進行中だ。
▼こうした連鎖は衰退ではなく「再構築のプロセス」と捉えるべきだ。利益の出ない立地を切り離し、デジタル投資・顧客体験・ブランド力に集中する動きが主流化している。実店舗を持たない「知的財産型小売」と、体験を核にした「プレミアム店舗型小売」という二極化が進行するだろう。淘汰と再編の痛みの中から、オンラインとリアルを融合した新たな小売モデルが形成されつつある。未来の小売地図は、まさにこの「閉鎖の嵐」の先に描かれているのだ。
2025/10/25
