―なぜいま「世界標準の経営理論」が必要なのか― ⑪

(先週、11月30日のつづき:早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をDHBR誌25年4月号から改めての連載を始めた。この内容を土曜、日曜日にピックアップして紹介しているが、「ソーシャルムーブメント理論」の3回目になる。)

フレーミング理論:人を動かす“語り方”の科学

フレーミングとは、「同じ事実をどう表現するかで、意味が変わる」という認知心理学的概念だ。たとえば「成功率97%」と「失敗率3%」では、同じ内容でも受ける印象は全く異なる。社会運動でも、この「表現の枠組み(フレーム)」が参加者や支持者を動かすカギになる。デイビッド・スノーとロバート・ベンフォード(1986)は、フレーミングを以下のように分類した。

  • 診断フレーム:問題の原因を明確にする
  • 解決フレーム:具体的な行動を提案する
  • 動員フレーム:行動を促す言葉を設計する

さらに、「平等」「環境」「正義」といった普遍的価値を掲げる「フレーム増幅」や、「異なる立場を結ぶフレームブリッジング」なども活用される。効果的なフレーミングは、共感を生み、支援を広げる“言葉の技術”なのである。

制度理論との融合:常識を塗り替える力

制度理論は、「社会や業界で共有される常識(制度ロジック)」が人々の行動を支配する、とする考え方だ。一方、ソーシャルムーブメント理論は、「その常識を打ち破る力」を説明する。両者は“静と動”の関係にある。マイケル・ラウンズバリー(2003)は、米国のリサイクル産業が「焼却処理」から「環境ビジネス」へ変わった過程を分析した。活動家たちは、「リサイクル=経済的価値のある活動」とフレームを転換し、社会の制度ロジックを変えたのである。このように、フレーミングは「常識を変える武器」になりうる。組織の中でも、「うちはこうだから仕方ない」という思考を乗り越え、新しい価値観を言葉で提示することが、変革の第一歩となる。

人を巻き込み、動かすストーリー:My Story, Our Story, Your Story

フレーミングの実践的手法として、DTVSの斎藤氏は「3つのストーリー」を提唱している。

  1. My Story ― 自分が何を成し遂げたいか。
  2. Our Story ― それが組織や社会にどう貢献するか。
  3. Your Story ― 相手にどんなメリットがあるか。

この3つを重ね、相手によって語り方を微調整する。これをマシュー・リーラ(2018)は「フレーム・ブローカレッジ」と呼んだ。ステークホルダーごとにフレーミングを変えることで、共感と合理性を両立させ、運動を広げていく。

ボトムアップで世界を変えるために

ソーシャルムーブメント理論が教えるのは、「変革は感情だけではなく、構造と戦略から生まれる」ということである。資源動員で仲間と資源を集め、政治過程理論で環境を読み、フレーミングで言葉を磨く。そして制度理論を超えて、新しい常識をつくり出す。パタゴニアもDTVSも、その道を歩んできた。社会も企業も、人を巻き込む理論と実践で、下から変えられる。いま、ボトムアップの時代が始まっている。

2025/12/06