―なぜいま「世界標準の経営理論」が必要なのか― ⑲

(早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌25年4月号から改めての連載を始めた。この内容を昨年から土曜、日曜日に紹介している。今回も「アイデンティティの理論」を取り上げる。今週は、「アイデンティティ変革はどのように起こるのか ― 再構築のプロセスとリーダーシップ」について編集してみた。

企業が変革を迫られたとき、多くの経営者は戦略・組織構造・人事制度など“外側”の仕組みを変えようとする。しかし、最も重要でありながら軽視されがちなのが「アイデンティティ変革」である。具体的には「自分たちは何者であり、何を大切にし、どこへ向かう組織なのか」を再定義するプロセスである。この再定義が伴わない改革は、社員の腹落ちが起きず、単なる“制度の変更”で終わってしまうのだ。

1.アイデンティティは「ゆっくり変わる」性質を持つ
アイデンティティは次の特徴を持つ。
● 変わりにくい(Slow-moving)
● しかし変えないと企業は衰退する(Path-dependence)
● 外圧・危機が変革の契機になる
アイデンティティは安定性と可変性という、相反する二つの性質を同時に持つ特殊な概念なのである。

2.アイデンティティ変革は、語り直し(Re-narrating)から始まる
アイデンティティは言語で共有されるため、変革には必ず“物語の書き換え”が必要となる。では何を語り直すのか?
① 過去の物語の再解釈
過去を否定するのではなく、新たな未来につながる意味づけ を行う。
② 現在の危機や課題の“意味づけ”
単なる問題ではなく、「変わるべき理由」として位置付ける。
③ 未来の物語を描く
*この会社はどこへ向かうのか
*社会にどんな価値を提供したいのか
*なぜ今の挑戦が必要なのか
この過去—現在—未来を一貫したストーリーで再構築することが、変革の出発点になる。(つづく)

2026/01/03