「ファイナンス」の講義があった。よく話題に上るのは、「何のためにファイナンスを学ぶのか」なのだが、経営の意思決定に直結する“考え方の道具”として整理しておきたい。先ずファイナンス(コーポレートファイナンス)の中心は、① 投資の決定(何に、いくら投資するか)、② 資金調達の決定(負債=借入・社債か、資本=株式発行などか)、③ 配分の決定(運用で得たお金を返す=配当する/返さず再投資する)という三つの意思決定にある。
▼これらの目的は企業価値の最大化で、ファイナンス上の企業価値は基本的に投資家(株主・債権者)にとっての価値を指す。ただし企業は投資家だけを見ればよいわけではなく、他の利害関係者との価値配分が崩れると継続できないので多角的に見る必要がある。また、従来の日本企業が重視してきた「会計上の利益」だけでは限界があり、利益よりキャッシュフロー、そして「過去を記録する会計」より現在〜未来を扱うファイナンスが重要になっている。短期の現金確保と、長期の投資による価値創造のバランスをどう取るかがトップの重要な仕事になる。
▼そこで、リスクを将来の不確実性やバラツキと捉え、リスクを避けるのでなく「取っているリスクに見合うリターンか」を問うべきだ。リターンは利回り(収益率)で、得たもの(キャッシュイン)÷投下資本で考える。この期待収益率は確率加重平均で表わす事ができる。これは、“これくらいリスクを取るならこの程度のリターンが欲しい”という要求でもある。資金にはコストがあり、債権者が求める利息が負債コスト、株主が求めるリターンが株主資本コストになるが、株主はリターンが約束されない分リスクが大きく、一般に株主資本コストの方が重い。株主資本コストの算定にはCAPM(リスクフリーレート+β×市場リスクプレミアム)があるが、限界も意識すべきだ。
▼この両者を時価ベースで加重平均したものがWACC(加重平均資本コスト)で、投資家の要求に応えるため、企業が最低限生み出すべき収益率のことだ。WACCが高いとは、投資家がその企業を高リスクと見て高い報酬を要求している状態になるので、IRの重要任務はWACCを下げるための適切な情報開示などになる。企業の運用成績は税引後営業利益を分子、投下資本(有利子負債+株主資本)を分母としてROICで捉える。経営者の使命は、ROICはWACCより大きいことを実現することで、差(ROIC−WACC)をEVAスプレッドと呼び、これをプラスで拡大することが価値創造になる。スプレッドがマイナスなら、投資すればするほど企業価値を毀損する——だからこそ「ROICを上げる」だけでなく「WACCを下げる」視点も重要なことになる。
2026/01/19
