―なぜいま「世界標準の経営理論」が必要なのか― ㉕

早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌25年4月号から改めての連載を始めた。この内容を土曜、日曜日に紹介している。今回から「リーダーシップ」を取り上げる。今週は、「いま『ポスト・ヒーロー型』が必要になった理由」についての編集になる。

■リーダーシップ研究において1990年代まで主流だったのは、リーダーを上位、フォロワーを下位とする関係を前提とした、力強いカリスマ型リーダーシップであった。しかし近年では、それとは対照的に、誠実さや倫理性、自身への正直さ、他者への思いやりといった価値を重視する新たなリーダーシップの理論の研究が活発になっている。こうした「ポスト・ヒーロー型」とも呼ばれる新しい理論を紹介しながら、これからの時代に求められるリーダーシップのあり方について考えてみる。

■入山 章栄氏が改めて本テーマを取り上げる理由は大きく3つ。① 新しい理論群の研究蓄積が進み、レビュー論文も出て“学界の合意”が形成されてきたこと。② SDGs等の社会要請により、日本企業に倫理性・社会性がより強く求められ、従来型理論だけでは説明力が落ちる可能性があること。③ 雇用の流動化・デジタル化で「尊敬されるリーダー像」が多様化し、優しさ・誠実さが変革力と結びつく局面が増えること、である。

■ここでのポスト・ヒーロー型の中心は3つ──エシカル、サーバント、オーセンティック。ただ、いきなり新理論だけを礼賛しないために、20世紀型の代表であるTFL(トランスフォーメーショナル)を“ベンチマーク”として再確認をしておこう。TFL(変革型)は20世紀のリーダーシップ研究の到達点であり、ビジョンで人を動かし、変化を起こす力として最重要概念の一つとされる。TFLと対で語られるTSL(取引型)は、報酬と罰=「アメとムチ」を用い、部下を観察し、真摯に向き合う管理的側面を持つ。TFLはそれに対して、ビジョンと啓蒙を核に、(1) ビジョンと誇り、(2) 知的刺激、(3) 個人重視の3要素で人と組織を変えていく。重要なのは、TFLとTSLは対立ではなく、両方を高い水準で持つリーダーが高業績を出しうる、という点である。(つづく)

2026/01/24