早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌25年4月号から改めての連載を始めた。連載論文のエッセンスを土曜、日曜日に紹介している。今回は、「自己決定理論」の3回目になる。自己決定理論は、6つの「サブ理論」の集合体として構成されているが、肝である有機的統合理論(OIT)についてだ。
■自己決定理論の肝は、有機的統合理論(OIT)だ。人は本質的に、外から与えられた規範や課題でも、「自分のものにしたい」=内在化したいという欲求を持つ。命令や指示でも、本人の価値観・アイデンティティと結びつけば、自己決定性が上がる。そこでOITは、外発的動機を「自分ごと化(内面化)の程度」で4種類に整理している。
① 外発的制御:罰・報酬で動く。やらされ感が最強(例:昇進するから、ペナルティが怖いから)。
② 取り入れ的制御:義務感・罪悪感・見栄で動く(例:怠け者と思われたくない、上司に認められないと困る)。
③ 認識された制御:意味・価値を理解して動く(例:好きではないが、健康のため/プロジェクトのために必要)。
④ 統合された制御:価値観とほぼ一致し、外発でも内発に近い(例:この仕事は自分自身のため)。
■現場マネジメントの仕事は、②で止めず、③→④へ押し上げることになる。やり方は「正論で押す」ではなく、本人が“そう思える”認知へ変わる支援(内面化)を設計することになる。
■次に内面化を進め、自己決定性を高める条件を描くのが、基本的心理欲求理論(BPNT)になる。人は生得的に3つの欲求を持ち、それが満たされると心理的に健康で自律的な動機づけが育ち、阻害されると不健康になりやすい。
① 自律性(autonomy):「他人にやらされている」ではなく、自分の選択・意思で行動していると感じたい欲求。
② 有能感(competence):「できる」「うまくやれている」と感じたい欲求。成功体験、適切な挑戦、承認で高まる。
③ 関係性(relatedness):他者とつながり、意味ある存在として受け入れられていると感じたい欲求。
■小売の組織運営で重要なのは、施策そのものよりも、運用がこの3欲求を満たすか/壊すかだ。例えば同じ「標準化」でも、現場の裁量をゼロにすると自律性を壊し、結果として改善が止まるのだが、一方で“やり方の選択余地”を残すと、標準化と自律性は両立する。(つづく)
2026/02/14
