『世界標準の経営理論』(入山 章栄氏)のダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌に掲載の経営理論を読み砕いている。昨日からの続き「ポジティブ心理学の理論」を進めたい。入山教授は、PERMAモデルは現在のポジティブ心理学のベンチマークとなる地図のような存在という。逆に言えば、これから解説する理論は、「PERMA」のどこに深く関連するかの視点で見ると、その位置づけがわかりやすいという。「E」(没入)のメカニズムを描く理論、「P」(ポジティブな感情)がもたらす効果についての理論、「M」(生きる意味)や「A」(達成)に関するメカニズムの理論、ビジネスで実践・導入されている理論を見ていきたい。なお、「R」を主に説明するのは自己決定理論になるという。
▼E(engagement):「没入・没頭」を説明する理論
入山教授は、「E」を明瞭に説明できる理論は「フロー理論」だけという。フローとは「没頭」の意味で、フロー理論の中心主張は、「人は『挑戦』と『技能』が釣り合った活動に没頭できた時、最高の充実感を得て、高い創造性を発揮する」というものだ。フロー状態を経験すると、人はその後の満足感が高まり、活動自体が喜びとなる。極度の集中により、生産性も向上する。人が経験しうる最高の経験状態と捉え、創造的な活動、スポーツ、仕事などにおいて、高いパフォーマンスに結びつくとチクセントミハイは主張した。

フロー理論の4象限:チクセントミハイ氏の話をもとに入山教授作成。図中の矢印は入山教授が挿入したもの
▼フロー理論のポイントは「挑戦」と「スキル」である。シンプルだが、これは重要だ。この理論のポイントは、フローを経験するには、挑戦のレベルとスキルが釣り合っていることが条件ということだ。例えば、スキルが十分でないのに、ただレベルの高い挑戦をしてもフロー状態にはなれない(図表の第2象限)。高いスキルがある人が挑戦的でないことをしても、フローは経験できない(図表の第3象限)。この図表の対角線で挑戦とスキルのバランスを取ることが重要であり、スキルと挑戦が高次元になるほど、よりよいフロー状態が実現する。
▼フロー理論は、ビジネスへの示唆をもたらすためにつくられたものではない。しかし、この理論は、ビジネスにおいても人が「仕事に没頭できる」ことの重要性、そのためにはスキルレベルに合った挑戦的な仕事に取り組むことの重要性を教えてくれるのだ。私たちの食品スーパーの現場でも、新任チーフや若手に「いきなり難題」を命じたり、ベテランに「単純反復だけ」を指示したりのケースもある。幹部の役割は、教育係に丸投げせず、配置・権限・課題設計でフロー条件を作ることになる。
次週は、PERMAの「P」であるポジティブな感情がもたらす効果について、「拡張─形成理論」「学習性楽観理論」を解説する。
2026/03/01
