早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、一度完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌25年4月号から改めての連載を始めた。連載論文のエッセンスを土曜、日曜日に紹介している。今回は、「ポジティブ心理学の理論」になる。PERMAモデルの「P」であるポジティブな感情がもたらす効果について、「拡張─形成理論」「学習性楽観理論」を解説する。(先週からのつづき)
▼P(positive emotion:ポジティブな感情)がもたらす効果についての理論に「拡張 ─ 形成理論」がある。ノースカロライナ大学のバーバラ・フレデリクソンによって提示された。この理論によると、人は喜び、興味、愛情、誇り、感謝などのポジティブな感情を持つと、2つのメカニズムを通じて認知にプラス効果をもたらす。暗い雰囲気の職場では、創造的なアイデアは生まれない。ポジティブな感情が、人の思考拡張や認知スキルの蓄積を促す。それがその人の認知に多様な選択肢を与え、レジリエンス向上にもプラスに働くのだ。
▼(1)ポジティブな感情は、一時的に人の思考の幅を広げる。嬉しい気分の時は発想が柔軟になり、新しいアイデアが浮かびやすくなる。逆に、恐怖・怒りなどのネガティブな感情は、人の認知を狭める。
(2)ポジティブな感情によって一時的に思考・行動が拡張されることの積み重ねが、長期的な知識・認知スキル・人間関係といった個人の資源を蓄積・構築していく。楽しい気分を繰り返せば、その人は一時的な発想を広げることを何度も継続できる。結果、その人の視野が、幅広く蓄積されていく。それは、その人の創造性を高める。
▼同じ文脈で「学習性楽観理論」では、失敗や逆境に直面した際の「説明スタイル」によって、立ち直りや再挑戦意欲が変わることが整理されている。セリグマンが1990年代初頭から提示してきた理論になる。楽観的な人は、仮に失敗やトラブルに遭遇しても、その原因を自分だけに帰属させず、「この状況は変えられる」と説明する傾向がある。反対に悲観的な人は、失敗の原因をみずからの無能さに求めがちで、「今後も同様の失敗が続くのでは」と考える傾向が強い。結果、楽観的な人のほうが失敗から立ち直りやすく、再挑戦する意欲を保ちやすい(=レジリエンスが高い)。実際、楽観的な説明スタイルの人は悲観的な人に比べ、仕事・健康・スポーツなどさまざまな領域で成功しやすく、鬱病にもなりにくいことが、過去の研究から明らかになっている。
なお、この楽観的な思考法・説明スタイルは、後天的な努力やトレーニングで身につけられるというのもこの理論の特徴だ。実際、セリグマンはこの理論をベースに、「ABCテクニック」と呼ばれる失敗への対処法を提示して、それは企業にも導入されている。(つづく)
2026/03/07
