3月9日、映画『ラストマイル』がTBS系列でTV放映された。サスペンスとしての面白さに加え、現代の物流・消費社会・組織責任を考えさせる作品である。監督は塚原あゆ子、脚本は野木亜紀子で、複数の作品が共通の世界観を設定し、キャラクター共有の中でストーリーが展開されるシェアード・ユニバース形式の作品でもある。物語は、ブラックフライデー前夜、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発し、連続爆破事件へ発展していく4日間を描き、物流センター長の“舟渡エレナ”とチームマネージャー“梨本孔”が事態収拾に向き合うというもの。
▼舞台設定がブラックフライデー前夜であることが象徴的で、安さ・早さ・便利さを追い求める大量消費のピーク時に事件が起きるので、「自分たちの消費行動は、誰の負荷の上に成り立っているのか」を考えるきっかけにもなるものである。巨大ショッピングサイトの関東センターから始まる事件として整理されており、テーマの中核にECと物流があり、稼働する設備もたくさん映されていることも興味深かった。
▼この作品、巨大組織の論理、現場の疲弊、責任の分散、人の感情の置き去りを描こうとしている内容が評価できる。主人公のふたりを中心に、現場・本社・捜査側・周辺人物が多層的に絡み合うため、事件を複数の立場から見られるのが魅力である。司法・医療・警察・物流という別々の現場知が接続され、社会問題の立体感が増している。第48回日本アカデミー賞・最優秀脚本賞受賞作品であり、社会的論点と娯楽性の接続、複数作品世界の統合、人物配置の巧みさが評価されたものであろう。
▼消費者の利便性の裏側には、必ず誰かの労働・時間・負荷があるということ。重大事故や不祥事を、誰かの失敗だけで片づけるのではなく、組織のあり方、評価制度、情報共有の仕方、目標値の設定方法などの点から見ることが重要と言っており、作品として企業経営や現場マネジメントの議論にも直結する内容である。食品スーパーもそうだが、社会インフラを担う事業は、その活動を停止させてしまう別の被害を生んでしまう場合もある。したがって、危機管理で大切なことは、社会機能を維持しながらリスクを抑える意思決定が必要になるので極めて難しい。実際、現場に近い人ほど異変や無理の実態を知っているのだが、上位の意思決定層ほど数字や建前で見がちになる。現場感覚と経営判断をどう接続するかを改めて考えさせる作品であった。
2026/03/13
