早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山 章栄氏が、完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー(DHBR)誌25年4月号から改めての連載を始めた。そこで連載論文のエッセンスを土、日に紹介している。今回は、「ポジティブ心理学の理論」を解説してきたが、今日は、「組織全般」に広範にインパクトを与える、言わば「組織開発」の施策において海外で幅広く使われている「アプリシエイティブ・インクワイアリー(appreciative inquiry)」について述べたい。
▼appreciative inquiryは、ポジティブ心理学領域が提唱される以前、1987年に、ケース・ウェスタン・リザーブ大学のデイビッド・クーパーライダーらによって提示された。この理論、端的に言えば、「人が事象に働きかけることは、その人が事象に影響を与えることでもある」という考え方である。ポジティブ心理学でこれが意味することは、「質問の投げかけ方によって、質問された当事者が受ける心理的影響が変わってくる」ということになる。
▼最大のポイントは、人が質問を投げかける際に、相手・組織のよい点を見つけ、そのよい点を中心に質問を投げかけることが重要という点にある。結果、受け手はポジティブな心理状態となり、さらに組織全体もポジティブに変化していくという主張なのだ。クーパーライダーらは、ポジティブな質問と対話を通じた「4つの段階的プロセス」(4Dサイクル)を提示した。
・discovery(発見):組織や強みや成功要因を発見する段階。
・dream(夢):発見した強みに基づいて、「ありうる最高の未来像」を思い描く段階。
・design(設計):夢を実現するために「あるべき組織の姿」を構築する段階。
・destiny(実現・運命):設計したアイデアを現実に移す段階。
▼従来の社内研修などにおけるグループワークは、企業・組織の問題や課題を中心に議論し、その改善策を示すことが多いはず。対してappreciative inquiryが目指すのは、あえてポジティブな問いかけを中心に対話を成立させること。前向きで変化にも対応し、困難も乗り越えられるようなポジティブな組織文化を形成していくのだ。ボトムアップで、各自が自発的に行動し、変化を定着させることが可能となる。現代では、appreciative inquiryは組織開発の重要なツールとして、世界中の企業で応用されるようになっている。
入山 章栄教授は、「ポジティブ心理学とは精神論ではなく科学であり、企業の人材戦略・組織開発戦略の基盤であるべき。企業・組織の『ポジティブ』は意図的につくり出せる」と結んでいる。
2026/03/21
