―なぜいま「世界標準の経営理論」が必要なのか― ㊷

入山 章栄氏の『世界標準の経営理論』だが、人が感情を持つのと同じように、人が集まる「組織」そのものにも感情があるという。最近の経営学ではこの「組織レベルの感情」への関心が高まっており、組織が持つ感情が、そこで働く人々の行動や組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすことが明らかになってきている。今回から「組織感情の理論」を取り上げる。感情が人から人へ、そして組織全体へとどのように伝播し、組織にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムの解説になる。

▼英語の表現で「emotions in organization」が該当するが、入山 章栄教授の造語で、これを「組織感情」として使用する。企業や事業部などの組織に広く行きわたった感情を著す。「当社は楽観的な雰囲気だ」「あの職場に行くとピリピリする」などと言うように、組織にも感情はある。組織が持つ感情が、そこで働くメンバーや組織のパフォーマンスに影響を与えることが、わかってきており、① 経営学では近年、組織レベルの感情への関心が高まっている。② 日本企業の間でも、組織感情が注目され始めている。そして、③ 近年の組織感情の研究の発展は「ポジティブ心理学」と同期しているから、このテーマを解説するとある。

▼本論に入る前に、感情は複数の階層で形成されることの解説だ。豪クイーンズランド大学のニール・アシュカナジーが2003年に「経営学で対象となる感情は5段階に分けられる」と発表した。第1は、個人が心に持つものである。第2段階は、「一対一の、人と人の間に生まれる感情」だ。その感情伝播は拡張し、複数人で感情が共有される(第3段階)。さらにそれは部署・職場などのチームレベルへ拡大し(第4段階)、最終的には企業・事業部などの組織単位にまで波及し、共有されうる(第5段階)。入山教授は、あえて業界・地域(国)など社会レベルの階層を追加している(第6段階)。

▼感情の複数階層は、互いに影響し合う。組織は人の集合体なので、個人が持つ感情が積み上がり、伝播することで、やがて組織全体の感情までが形成されていく。他方、組織が共有する感情に、個人が影響を受けることもある。そもそも「組織には共有される感情があり、それがメンバーに影響を与える」という発想自体は、長く心理学で注目されていた。経営学でも、複数人が共有する感情については「ムード」などの言葉で1990年代から注目され始めていた。しかし、より明示的に組織感情を概念化し、そのメカニズムを研究するのが盛んになったのは、2000年代に入ってからである。(次週へつづく)

2026/03/22