入山教授の『世界標準の経営理論』だが、人が感情を持つのと同じように、人が集まる「組織」そのものにも感情があるという。最近の経営学ではこの「組織レベルの感情」への関心が高まっており、組織が持つ感情が、そこで働く人々の行動や組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼすことが明らかになってきている。
(昨日からのつづき)「感情風土」と「感情文化」の関係から見て行こう。
▼図は「感情文化」と「感情風土」の関係を入山教授が表したものだが、感情風土が、実際に組織で感じられるその組織特有の雰囲気であるのに対し、感情文化は「この組織では何をどう感じるべきか」の規範になる。規範に基づいた行動が蓄積されることで、風土が醸成されていく。
感情文化は、メンバーの行動に影響を与える。例えば、喜びや楽しさを大事にする感情文化が強い企業では、仕事でトラブルがあっても、その解決策を練る時に、社内でユーモア・冗談が飛び交うだろう。逆に「恐れ」の文化が強い組織では、トラブルが発生した際に全員が深刻な表情をして、張り詰めた雰囲気の中で議論が行われるだろう。
▼経営学で感情文化を初めて研究したのは、バーセイドとオニールが2014年に『アドミニストレイティブ・サイエンス・クォータリー』に発表した論文になる。米国北東部の非営利長期介護施設を16カ月にわたって追跡調査したもので、組織における「compassionate love(同伴的愛の文化)」を研究した。同伴的愛とは、温かさ・思いやり・親密さ・優しさなどを含む基本的かつ社会的な感情のことになる。
調査の結果だが、同伴的愛の強いユニットにいる従業員ほど、情緒的消耗が少なく、欠勤日数が少ないことが明らかになった。また、チームワークや職務満足度も向上することが確認された。介護を受ける患者も、日常の気分が高まり、生活の質が向上し、満足度が高くなった。加えて、患者の救急搬送数が減少するなど、健康面での成果が高まることも明らかになったのだ。
▼この研究に代表されるように、感情文化は組織やメンバーのパフォーマンスに影響を与えることが、これまでの研究でわかってきている。欧米企業などを中心として感情文化を能動的に構築し、組織開発に活かす企業が多く出てきている。そう考えると「では、自社の感情文化・風土は、どのようにすれば形成できるのか」ということになる。
したがって理解が必要なのは、感情文化・風土形成のメカニズムである。組織は人の集合体なので、結局は人から人への「感情伝播」(emotional contagion)を通じて、組織に感情は浸透していく。感情伝播のメカニズムを説明する理論を次週取りあげたい。
2026/03/29
