感情はなぜ広がるのか、職場の空気ができる仕組み・・・

早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(2019年刊行)は、15万部を超えるベストセラーとなっている。その入山教授が、完成したはずの「世界標準の経営理論」をダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー誌に改めての連載を始めた。時代の変化の中で、新しい理論が生まれたり、必要な理論のウェートが変わったりしているということだ。そこで連載論文のエッセンスを土、日に紹介している。今週は、「組織感情の理論」の3回、4回になる。

▼(前回のつづき)では、組織の感情はどう広がるのだろうか。論文では、その鍵として「感情伝播」が説明されている。しかもその伝わり方は、言葉以上に、表情、声の調子、姿勢、態度といった非言語的な要素に支えられているとある。人は相手の表情や声色、姿勢を無意識にまねる傾向があり、その結果、相手と似た感情になりやすい。もう一つは、認知を通じた伝播になる。人は周囲の表情や言葉を見ながら、「今ここでは何を感じるべきか」を判断する。感情は単に感染するだけでなく、周囲を見て意味づけされ、調整されるのだ。

▼小売業の現場では、この感情伝播は非常に分かりやすく表れる。組織内の出来事そのものが感情を動かすので、上司の叱責、顧客からの称賛、会議での一言、失敗の共有など、そうした出来事が、人の感情を生み、その感情がまた周囲へ波及していくのだ。その上で、感情は特に「狭い範囲」で伝わりやすいと指摘している。むしろ近い範囲で濃く伝わる。だから、店によって、部門によって、雰囲気が違う。空気は、制度より先に、人と人の接点でつくられているからだ。

▼ここで大切なのは、感情は特に非言語で伝わりやすいという点だ。表情、声のトーン、間、姿勢、視線。これらは文章だけでは伝わりにくい。チャットやメールだけのやり取りでは、温度感までは届かず、感情が十分に届かず、誤解も起きやすくなる。現場を動かすには、対面での声かけや、表情を伴うコミュニケーションが大切になる。学ぶべきことは、自分の感情表現は、想像以上に周囲へ伝わっているということだ。例えば、朝礼での一言、売場巡回中の表情、会議中のため息、感謝の言葉の有無。こうした小さな感情表現が、店の空気を少しずつ決めていく。職場の雰囲気は自然現象ではなく、毎日の表情の積み重ねでできている事を再認識したい。

2026/04/11