Order Fulfillment Cartsを「押す」か「引く」かで大混乱・・・

2024年7月、ニューヨーク州イサカ市のコーネル大学を訪問した折に、Walmartの店舗見学をした。毎回、定点観察をする感覚で売場を見学するのだが、この時は、セルフレジゾーンが大きく広がっていた。セルフレジを使用する顧客の為のサービス係(コーネル大学の留学生・パートタイマー)が、「EC売上が伸びており、ピッキングが間に合わない。フルサービスのレジ台数を減らし、ピッキング要員を増やすことが必要なのさ」と語ってくれた。Walmartの地方の中型店舗なのだが、行くたびに変化する新しい事への挑戦が見られる。

▼この時の対応を証明するように、2026年1月期の報告書を見ると、WalmartのEC売上高は合計で約1504億ドル(約22兆5600億円)に達した。この売上数値は、日本のコンビニ業界全体の年間売上である約11兆円の2倍に相当する。ECの売上構成比は約21.3%にまで拡大し、黒字化も達成している。全米約4600の実店舗を顧客の最寄りの物流拠点として再定義し、店舗受け取りやダイレクト配達を中心としたオムニチャネル戦略が花開いているのだ。結果、実店舗は巨大なピッキング場と化しており、ネット注文用の専用カートが通路を占拠する光景が日常となっている。オンライン注文の商品を集めるピッカーたちが巨大なOrder Fulfillment Cartsを押して店内を駆け回っている。笑えない話だが、このカートを「押す」か「引く」かを巡って大きな混乱が起きたのだ。

▼Walmartでは、これまでも店舗従業員が押すカートが顧客にぶつかり怪我をさせたとする複数の訴訟に直面し、2024年には120万ドル(約1億8000万円)の支払い判決も下されている。安全上の懸念と訴訟リスクを減らすため、店舗でのピッキング用カートを「押す」のではなく、常に前方から「引く」ように新ルールを導入したのだが、このルール変更は現場で猛烈な反発を招く結果になった。カートを引くことでかかとの後ろにカートが衝突して怪我したり、肩や手首、背中の筋肉を痛めたりといった労働災害が続発している。また、視界が限られ、商品棚をなぎ倒してしまうといったトラブルも多発した。さらに、カートのメーカーラベルには「引いてはいけない」と明記されており、従業員たちは労働安全衛生局の安全基準に違反する行為であると、当局への通報運動が広がる事態となったのである。

▼この事態を受け、Walmartは方針の転換を図った。「引く」ルールを部分的に撤回し、ピッカーの視界を確保するための新たな安全策が導入された。カートに乗せるトートの最大数を従来の8個から6個に減らすことで前方の視界を確保し、視界が良好な場合はカートを「押し」、視界が限られる場所に限り「引く」ことのルールに変更された。急増するネットスーパーの注文を処理するための苦肉の策である。トートの数を減らすことは1回のピッキング量を減らすことになり効率は落ちるが、Walmartはそれをデジタル棚札などの最新テクノロジーで補おうと新たな取組みに着手している。

2026/05/21