直感は生まれつきではない。鍛えられる能力である・・・

早稲田大学大学院教授の入山 章栄氏の著書『世界標準の経営理論』、15万部を超えるベストセラーとなっているが、時代の変化の中で、新しい理論が生まれたり、必要な理論のウェートが変わったりしていることから、ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー誌に改めての連載を始めた。そこで連載論文のエッセンスを土、日曜日に紹介している。今回は「直観の理論」で、AI時代にこそ人間の直感の価値が高まると言われている。今週はこの研究理論の5回目(最終回)。直感というと、天性のひらめきのように語られがちだが、この論文が最後に強調しているのは、直感は生まれつきではなく、鍛えられる能力であるという点だ。

▼まず鍛えられるのは、パターン認識だ。論文では、職人や熟練工の例が引かれている。同じ仕事を何度も繰り返すことで、微妙な差異や異常の兆候が見えるようになる。これは経営でも同じだ。ただし経営の世界は、工場のように毎回同じ条件ではない。競争環境、顧客変化、社内事情、技術革新など、変数が多い。だから経営者や幹部に必要なのは、単純反復よりも、多様な経験を数多く積むことだ。うまくいった経験だけでなく、失敗、抵抗、混乱、修羅場の経験が、直感の材料になる。

▼さらに大切なのは、経験をただ重ねるだけで終わらせないことだ。経験したことを振り返り、「なぜあの判断が当たったのか」「なぜ違和感を見逃したのか」を言葉にする。そうすることで、自分の中の世界モデルが更新される。つまり直感は、経験の量だけでなく、経験をどう意味づけたかによって磨かれる。さらに、身体感覚を無視しないことも大事だ。直感は、頭だけでなく体も使っている。忙しさの中で疲労しきり、違和感に気づけなくなると、直感の質は落ちる。会議で感じたわずかな不自然さ、相手と話して覚えた胸騒ぎ、企画に対して残る腹落ちしなさ。こうした感覚を「気のせい」と雑に処理せず、一度立ち止まって確かめる姿勢が必要になる。

▼組織運営への実務的な示唆は明快だ。なぜなら、良い意思決定をする幹部や管理職は、生まれつき選ばれるのではなく、育てられるということだからだ。幹部育成では、知識教育だけでなく、多様な修羅場経験を積ませること。異動やプロジェクトで違う局面を経験させること。判断の振り返りを習慣化すること。そして、数字だけでなく違和感を言語化する訓練をすることだ。AI時代に組織が最後に頼るのは、答えを計算する人ではなく、曖昧で複雑な状況の中で「何を選ぶべきか」を感じ取れる人なのだ。直感とは、そのために磨くべき、人間の中核能力なのだ。

2026/05/23