現実の世界は、総取りでも均一でもなく、その中間にある・・・

(昨日のつづき)「スケールフリー理論」は非常に魅力的だ。少数のハブが全体を握る、という構図は、SNS、ウェブ、プラットフォーム企業を見ると「結局はハブが総取りするのか」と考えたくなる。ネットワークサイエンスを学ぶと、たしかにその面はある。論文でも、「パワー・ロー分布」や「対数正規分布」に近い巨大ネットワークでは、ハブが非常に強い立場を取ることが説明されている。ただ、論文は同時に、現実の多くのネットワークは、そこまで極端な総取りにはならないと述べている。

▼その理由は、現実には成長や接続数に限界があるからだ。空港には滑走路の限界があり、SNSにも接続数の上限がある。同じように食品スーパーの商圏にも限界がある。どれだけ強い店でも、車で来店できる距離、配送できる範囲、店内オペレーション、従業員の人数、冷蔵能力には上限がある。つまり、理論的にはハブになれても、現実には頭打ちになるのだ。そのため、その後の研究では、現実のネットワークは大きく4つの次数分布グループで近似できると整理されるようになっている。

▼「ポアソン分布」は、人数制限のあるイベントのような、比較的ランダムで均一なつながり。「パワー・ロー分布」は、WWWのリンクネットワークのように、極端にハブ化が進み、ハブが強い構造。「指数分布」は、ハブはあるがそこまで極端ではない構造。「対数正規分布」は、その中間で左右非対称ではあるが、パワー・ローほど裾野が長すぎない、ロングテールが行きすぎない構造だ。都市人口、企業規模、SNSフォロワー数は対数正規分布に近いと論文は整理している。では、食品スーパー業界は、どこに近いのだろうか。地方商圏の店舗は、強い店はあっても完全総取りではなく、中間型のネットワークに近いであろうし、地域密着型の店どうしは、場合によってはかなり“密なクラスター”をつくるかもしれない。

▼経営を考えるうえで、この“中間性”は非常に重要だ。つい、「全部が総取りになる世界」か、「皆が横並びの世界」かの二択で考えがちだが、現実の多くは、その間にある。少数の強いプレーヤーはいるが、完全な独占ではない。中堅にも十分な居場所がある。勝者は生まれるが、二番手や三番手も価値を持つ。そうした構造なのだ。ここでの示唆は明快で、全部の企業が、巨大ハブを目指す必要はないということだ。食品スーパーに必要なのは、「総取りの夢」を見ることではなく、自社がいるネットワーク構造を見極め、その中で勝てる位置を選ぶことなのだ。ネットワークサイエンスは、勝ち筋は一つではないことも教えてくれる。

2026/06/21