(昨日からのつづき・「複雑系の理論」②)複雑系を理解する第一の鍵は、「非線形」という考え方だ。線形とは、原因と結果が比例する関係なのだが、例えば、売場面積を10%増やせば売上も10%増える、人員を10%増やせばサービスも10%良くなる、販促費を10%増やせば客数も10%増える、というような考え方だ。しかし、食品スーパーの現実はそう単純ではない。売場を広げても、品揃えの意味が伝わらなければ売上は伸びない。人員を増やしても、教育や役割分担が不十分なら、かえって現場が混乱することもある。逆に、わずかな売場改善、たとえば平台の鮮度感、惣菜の出来立て感、レジ前の声掛け、欠品の減少といった小さな変化が、顧客の印象を大きく変えることがある。
▼非線形の世界では、小さな変化が小さな結果に留まるとは限らない。ある変化が現場や顧客の中で繰り返し反応し、やがて大きな成果や問題につながることがある。例えば、鮮魚売場で「今日は魚がいい」と顧客が感じる。その顧客が来店頻度を上げる。家族や知人に話す。鮮魚担当者も手応えを感じてさらに工夫する。この循環が続くと、単なる一部門の改善が、店舗全体の支持に広がることがあるのだ。
▼反対に、悪い方向にも非線形は働く。欠品が一度なら問題は小さいかもしれない。しかし、何度も続くと顧客は「あの店には欲しい商品がない」と感じてしまう。売場の乱れも同じだ。少しの乱れが担当者の意識低下を招き、それがさらに売場の荒れにつながる。やがて店舗全体の印象が落ちる。最初は小さな乱れでも、繰り返されれば大きな客離れにつながってしまうのだ。
▼経営者は、大きな政策だけに目を向けていては駄目だ。店舗運営では、小さな差が大きな差になる。特に、食品スーパーは、毎日使う店であり、顧客の評価は日々積み重なる。一回の買物体験は小さくても、それが何十回、何百回と繰り返されることで、信頼にも不信にも変わるからだ。したがって、非線形の視点から見ると、経営の役割は「大きな施策を打つこと」だけではない。小さな変化を見逃さず、良い兆しを育て、悪い兆しを早く断つことだ。食品スーパーの競争力は、派手な改革よりも、日々の小さな改善が積み重なり、ある時点で大きな顧客支持に変わるところにある。
2026/07/19
